追記:2018.9.1
YouTubeで初演の模様をアップしました。
ベートーヴェンの第九と共に初演を迎える事ができたこの幸福な新曲は、新しい景色を何度も見せてくれています。本当に多方面からたいへん嬉しいお言葉を頂いきました。改めて心より感謝申し上げます。
プログラムの中にの楽曲解説を書かせて頂きましたが、こちらでは裏話を少しばかり、ブログならではの内容で初演ノートを書いておこうと思います。
Symphonic piece series -Arietta-
初演:2018年4月22日 アリエッタ交響楽団
和光市民文化センターサンアゼリア 大ホール
ベートーヴェンのエグモント、交響曲第9番と共に
演奏時間13分くらい
編成
ピッコロ1、フルート2、オーボエ2
Aクラリネット2、ファゴット2
コントラファゴット1
ホルン4、トランペット2、トロンボーン3
ティンパニ、弦楽器5部
当初よりベートーヴェン交響曲第9番の前半プログラムという指定があったので、楽器編成を「第九」に合わせたものにしたのですが……。
実は、コントラファゴットを今までほとんど使ったことがなかったので、リハーサルで音を聴くまで、けっこう心配でした(^^;;
幸い、作曲中にコントラファゴットの音に触れることが出来たられたのは大きかったと思います。
改めて、この「実地訓練」は大事です。
メインモティーフと楽曲構成について
プログラムでも紹介しましたが、
今回の楽曲は「Arietta」のスペルにある「A」「e」「a」をドレミにあてた「ラ」「ミ」「ラ」の3音から発想を得て楽曲が創られています。
2017年2月5日に行われたアリエッタ第8回定期の打ち上げの席で「委嘱」の話が初めて出たと記憶しています。
その日のうちに楽曲の「A」「e」「a」によるメインモティーフと、導入部冒頭のファンファーレを温めはじめました。
頭の中で構想を練ってはいたものの、この時期は本番や締切りなどが重なり、スケッチとして書き始めたのは2017年8月1日に行われたアリエッタ第9回定期以降と記憶しています。
そのスケッチを書き始めるまでに、楽しい曲にしたいと想像し、プログラムに紹介しましたシナリオ−−
楽器たちが集い、試行錯誤の末「アリエッタ」という楽団を結成し、いよいよ初舞台
−−というものを思いつき、それに基づいた楽曲構成をとっています。
試行錯誤のシーン「アリエッタ」という名前が決定されるまで
今回の楽曲にはシナリオに加え、細かいテキスト台本(いわゆる妄想)も存在します。
あまりに固執しすぎても自由な発想がなくなりましょうし、そんなお見せするようなものでもないですから、今回奏者には初演にあたり、解釈の参考になりますればと、ほんの一部だけ紹介したのですが……
これがどういうわけか好評で、ぜひ全文公開を!なんて話もあったものですから( ̄▽ ̄;)
こちらでも少しだけ載せておきます。全文はイヤです恥ずかしいので(^^;;
〈テキスト台本より〉
ヴァイオリン「楽しいものがいいね~。このような旋律(名前)はいかがかね?」
他の楽器たち「なんだねいきなり!!」
ファゴット(木管)「まあまあ、喧嘩はよしなさい」
ヴァイオリン「じゃあ一体どのようになさるのか?」
ファゴット「やはりこれではありませんか?」
フルート(団の代表)「このようなものは?」
一同「素晴らしい!」
というテキストから、このシーンのオーケストレーションに役立てています。
アリエッタ賛歌
結成のシーンを経て弦楽器で奏されるモティーフを「賛歌」と呼んでいます。
プログラムに書きそびれてしまいましたが、「アリエッタ」には「そよ風」という意味があります。当然ながらその言葉が持つ意味も旋律に乗せられるよう、この賛歌の旋律でいかに「そよ風」を吹かせられるか?を随分と考えたものです。
風を感じてくだされば嬉しい限り。
私がこの楽曲の事を話す時の「アリエッタ賛歌」という名前は、この「賛歌」のモティーフから用いています。初演のプログラムには、団体に敬意を評して副題としましたが、ゆくゆくは「この楽曲の愛称」として残ってくれたらと願っています。
リハーサル時の興味深いこと
余談ですが、リハーサルの時、この辺りの書き方で興味深いことがありました。少々専門的な内容ですので別記事にて。
金管楽器の登壇
賛歌を歌っているところに突如、華やかに金管楽器が現れます。
〈テキスト台本より〉
酔っ払いのトロンボーンが歩み寄ってくる。楽器たちは華やかなファンファーレに魅了され、ざわつき、共に歌わんと高らかに音を奏でる。
トロンボーンから始まり、トランペット、ホルンと続くファンファーレモティーフで役者が全て出揃い、この一連のシーンは「楽器たちの華やかなリハーサル」としています。
§ アリエッタワルツに込めたもの
舞台は会場の外へ(舞台上の音楽が微かに聞こえてくる静かなところ)
オーボエ、チェロ、2nd.ヴァイオリンによる「ため息」の語り
〈ちょっと註釈〉
オーケストラの弦楽器「ヴァイオリン」には1st.パートと2nd.パートがあります。主に1st.ヴァイオリンはメロディーを弾き、2nd.ヴァイオリンは伴奏に回るというのが一般的なのですが……
オーケストラ作品において、またアンサンブル楽曲において、構造上どうしてもつまらないパートが存在するものですが、私の楽曲では、それをできるだけ少なくしたいと心がけております。
今回の楽曲では特にこのシーン。2nd.オーボエ、2nd.ヴァイオリンにスポットを当て書き進めました。
主旋律、話をしているのはは2nd.ヴァイオリンであり、1st.ヴァイオリンはオブリガートである。
〈テキスト台本より〉
いい演奏会を期待しつつも、不安なる存在を見る。
オーボエ「…(ため息と語り)」
チェロはオーボエの「ため息」に答えるが
2nd.ヴァイオリン「アリエッタね~ここまではきたものの、果たして…」
2nd.オーボエ「…(ため息)」
1st.ヴァイオリンが歩み寄るもまだ遠く、2nd.ヴァイオリンの言葉に耳を傾け
1st.ヴァイオリンと2nd.ヴァイオリンで肯定と否定を繰り返す。(静かな言い争い)
しかし最後にはそれぞれ「A」「E」「A」と回答を出す。
2nd.ヴァイオリン「それでも私たちは『アリエッタ』を唄い前に進むのでしょう」
1st.ヴァイオリンは静かに全体を包む(賛歌のテーマ)
やはりこれらのやり取りは空想の話のことですが、どのオーケストラにも多かれ少なかれ、何かしらのわだかまりがつきものです。私もいくつかのオーケストラで演奏させて頂いて、やはりそのような事を感じ、何か力になれる事はないかと考えます。
そんな紆余曲折を繰り返しながらも前に進もうとする楽器たちを表現したく、このワルツシーンが生まれたのですが……。
願わくば、初演頂いたアリエッタ響には、そう言ったわだかまりが少なきことを、仮にあったとしても、力を合わせて少しずつでも乗り越えていって欲しい。
そう願います。
ワルツシーンの救済があり、いよいよ演奏会本番のシーン。
楽曲冒頭のファンファーレが鳴り響き、賑々しく重要なモティーフを繰り返し、やはり「A」「E」「A」と歌われ終止されます。
最後に「Symphonic piece」について
「Symphonic piece」というシリーズは、スケッチも含めいくつか書いている「オーケストラのための小品」です。実は今まで一度も本番を迎えることができなかったシリーズでした。こうしてオーケストラで初演が叶ったことは本当に嬉しいことで、これでようやく次なる「Symphonic piece」を書くことができそうです。
以上、なかなか文章では伝わらないところでしょうが、初演ノートといたしまして。
長文ながらお読みいただき感謝です。またいつか再演が叶いました時、こちらのブログと合わせて、お楽しみ頂ければ幸いです。
2018.5. Tokyo.